夫の料理修業

 私は今まで比較的元気で寝込んだ事があまりない。しかし、今回は非常に参りました。起き上がれ無いのです。食欲が無く、食事を作る気もしない。
 仕方無く夫がキッチンに立ちます。チキンの照り焼きが半焼けでも煮込みうどんの味が薄くても、私は美味しい美味しいと言っていただきます。でも、食欲が無いので少ししか食べられません。何回にも分けて、なんとかうどん1杯食べることが出来ました。
 
 夫は非常にまめで、よく動きまわります。
家事の中では「洗濯」について、抜群の力を発揮します。
 朝、天気予報を聞いて、洗濯するか決定。そのあとも、空模様をしょっちゅう気にして空を見上げ、雲行きに一喜一憂し、洗濯ものを出したり入れたりするのです。
 その日の洗濯ものが取り込まれると、私はほっと胸をなで下ろす。
 それは「空を見上げる指令の終了」を意味するからである。

 
 掃除はまあまあ、必要に迫られて、というところでしょうか。

 
 しかし、料理はまるきしダメで、味音痴? センスが無いのです。それは自分でも分かっているようで、キッチンに近づかない。出されたものをもくもくと食べるだけ。
「おいしい?」
と聞いても、
「まあまあ?」
と答えるだけである。結婚以来数十年、結構な年数になるが、今だかつて
「これはうまい!」
と言ってもらったためしがない。

 
 ところが今回、私が起き上がらないし何も食べないものだから、しきりにキッチンに立ち、
「何が食べたい?」
と聞いてくる。
「りんごとリンゴジュース」
と言うと、早速買いに行き、リンゴはおろしりんごにしてくれた。冷たくてとても美味しかった。

 今夜は水炊きの準備をしてもらおうと思っている。簡単なものだが、何しろ彼にとっては初めての経験である。