小川洋子著 偶然の祝福

 7編の短編からなるこの本の中で「エーデルワイス」が私は一番面白かった。

 一月の寒い午後だった
 噴水を取り囲むようにして並んだベンチで、私は隣の男に声をかけた。
「それ、おもしろいですか? 」
「僕にとって一番大事な小説です」

 こんな会話をしながら、次第に私はこの男から抜けられなくなっていく。
「一ページ一ページなめるように読んでゆきます。言葉の感触が舌から伝わってくるのです」

 自分の書いた小説を愛するこの男と関わることで、いつもの小川洋子の奇妙でエロティックな世界へ読者を誘い込んでいってしまう。
 
 読みながらいつの間にか小川洋子の世界に引きずり込まれてしまう面白さがあった。