補聴器

 元さんはずっと以前から耳が遠い。
だから我が家では、けんかをしているような大声で話し合うのがふつうだ。
テレビを見るときは音量を最大にして見るので、まるで映画館のようだ。
それでなんとか生活してきたが、最近困った問題が起きた。
 それは、自治会の役員になったので会合に出なければならないことだ。
役員さんの発言の声が聞こえないというのだ。

 今日、長男と一緒に補聴器を見にいった。なかなか合うものが無いと思い、本当に参考までに見るという気持ちだった。
 久しぶりに見る補聴器は、ずいぶんコンパクトになったなという感じだった。
 補聴器を耳につけた元さんに、コンサルタントの方のいろいろの言葉かけに元さんが答えている。今までにない小さな声なので、たぶん聞こえないだろうと思われた。
 ところが、以外にも答えられるのだ。聞こえている……、くぐもったような小さい声なのに、聞こえているのだ。素晴らしく性能が良くなっている。
 物質欲が無い元さんは、いつもなら「いらない、いらない」というのに、買う気になっているのが、私には不思議だった。
 それほど元さんは聞こえることがうれしかったのだろうか。
 3人の子供家族で買ってくれるというのだが、言葉に甘えて良いものかどうか……。