失敗

 しまった! と思った時はもう遅かった。車のドアはバタンと閉った後だった。
どうしよう、キ―は刺さったままで、エンジンが点いたままだ。そんなに急いでたかな?
スーパーで買い物をして、その向かいにあるクリーニング店に寄った時のことだ。確かに時計が11時半を指しており、急いで帰って昼食を済ませ、出かける用意をしなければ、そして、出かける前に夫の夕食の用意もしてから……と、頭の中がいっぱいだったことは確かだ。
 どうしよう。ドアを引っ張ってみるがびくともしない。こんなことは初めてだ。こんな時、開ける方法はあるのだろうか。考えてみるが分からない。
 やっぱり夫に頼むしかないか。

 夫はなかなか来ない。私が出かけた時は「遅い遅い」と言うが、自分だって遅いじゃないの、等と考えながら待っていた。せっかちなくせに、出がけは案外もたもたする人だ。
「遅かったね、何してたの」と嫌みを言おうか、いつものお返しに、などと考えながら待っていた。

 待っているって長く感じるものだなと諦めかけた時、夫のバイクがこっちに向かって走って来るのが目に入った。
「遅かったね」と嫌みを言うのは止めよう。私の失敗のために、わざわざ来てくれたのだから。