田中さんちの赤ちゃん


 庭の花ミズキが満開です。

 あまりの晴天に庭をぶらぶらするうちに、鎌を手にして芝の手入れを始めてしまいました。緑色の新芽と枯れた葉がカチンカチンに固まっています。それを鎌の先で搔き取っていきました。面白いほどに枯れた芝が搔き取られていきます。芝の目土を撒き、芝の肥料を撒きます。これでふさふさの新緑になるでしょう。
 体がくたくたに疲れたのに、裏庭の雑草も気になりました。えいっ、ついでにやってしまえ。そして夕方の6時頃まで掛ってしまったのです。
 夕飯の支度をしなければならないのに体が動きません。ソファでのびていると、玄関のチャイムが鳴りました。
 筋向かいの田中さんです。手に伊勢海老一匹と苺一パック持って立っています。
「苺狩りに行ってきたのよ。伊勢海老、良いおだしがでるわよ」
「また頂けるの?」
 まあ、どうしたことでしょうか。我が家は畑をしていることから沢山採れた時、きゅうり、トマト、大根などとおすそ分けすることが何回かあった。いや、お向かいの小山さんは最近外国旅行づいていて、イタリア土産、フランス土産、イギリス土産とよく頂くが、
「お返しはしない主義だから」
と、公言してはばからない人だった。それなのに伊勢海老とは……。
息子さんたちを歓待しているおすそ分けを我が家にも頂いたという訳だろう。
 一旦家に帰った彼女は、赤ちゃんを抱いて表に出てきた。息子さんもお嫁さんも一緒だ。なんときれいな赤ちゃんだろう。色白で目がぱっちりして……。眠いのにお腹が空いているらしく、丸めた片手をぺちゃぺちゃ舐めている。泣きたいのにみんながあやすものだから、泣き笑いでお愛想を振り撒いている。これでは田中さんがメロメロになるのも無理はない。
 お嫁さんは大学で日本語を専攻したらしく、日本語が達者なようだ。日本人の田中さんより日本食が好きで、刺身もお寿司も大好きだそうだ。回転寿司に行きたいと言う。
 ちなみに、お尻周りについては、日本ではズボンは買えないと私も思った。
 伊勢海老のお陰で、疲れている私は大いに助かった。そのおだしで煮た豆腐と野菜はとても美味しかった。夫は晩酌のお供に伊勢海老を大いに楽しんだ。