井上ひさしさん

 9日に75歳で亡くなった作家井上ひさしさんは、自宅がある神奈川県鎌倉市のJR鎌倉駅に近い繁華街「小町通り」の喫茶店でコーヒーカップを手に、ガラス張りの店内から人の流れを眺めるのが好きだったそうだ。店の御主人は「人間観察と、作品の構想を練る場として使ってくださっていたようだ」と思い出す。
 井上さんが約20年前に鎌倉に住み始めたのは「雷が嫌いだが、鎌倉は少ないと聞いたから」だという。自宅は山の中腹にあり、空気が澄んでいることも気に入り、鎌倉駅まで歩いて行くことが多かったという。
 演出家の栗山民也さんはある時、カンヅメ状態で執筆中の旅館を尋ねるとふすまの隙間から井上さんが見えた。裸電球の卓上ランプをともして原稿用紙を積み上げ、机に15センチほどまで顔を近づけて、必死のさまで一字一字を刻んでいる言葉が生まれる血のにじむような光景に、「涙がこぼれそうになった」と、回想している。ー「演出家の仕事」ー
 戯曲に小説に評論に、幅広い仕事を残した井上さんは、言葉の持つ力をとことん信じた人だった、と、13日付朝日新聞で読み感動した。私は今まで氏の作品を殆んど読んでいない。不勉強を痛感した。